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名古屋地方裁判所 平成4年(ワ)2275号 判決

原告 A

原告 B

右原告ら訴訟代理人弁護士 山田幸彦

同 羽賀康子

被告 名古屋市

右代表者市長 松原武久

被告 小笠原真弓

右被告ら訴訟代理人弁護士 成田清

右訴訟復代理人弁護士 長谷川ふき子

主文

一  被告らは、原告Aに対し、各自金一八二六万五七一五円及びこれに対する平成三年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告Bに対し、各自金一八二六万五七一五円及びこれに対する平成三年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各原告に対し、各自金二〇〇六万五七一五円及びこれに対する平成三年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らと被告名古屋市との間における原告B(以下「原告B」という。)の双胎分娩等に係る診療契約に基づき、被告名古屋市が設置し管理運営する名古屋市立緑市民病院(以下「緑市民病院」という。)において、原告Bが双子を出産したが、その際、第二子(C、以下「C」という。)に臍帯脱出が生じ、Cが重度の仮死・無酸素脳症の状態で出生し、その後、誤嚥による呼吸不全により死亡するに至ったところ、原告らが、Cが重度の仮死・無酸素脳症の状態で出生したことについて、緑市民病院に勤務する医師である被告小笠原真弓(以下「被告医師」という。)及び医師山田昌夫(以下「山田医師」という。)に過失又は不完全履行があったとして、被告医師に対して不法行為に基づき、被告名古屋市に対して使用者責任又は債務不履行に基づき、更に被告名古屋市に過失があったとして、被告名古屋市に対して不法行為に基づき、損害賠償として、各原告に対し、各自金二〇〇六万五七一五円及びこれに対する不法行為の日である平成三年六月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

(争いのない事実のほかは、各項に掲記の各証拠によって認める。)

1  当事者

(一) 原告A(以下「原告A」という。)はCの父であり、原告BはCの母である。

(二) 被告名古屋市は、緑市民病院を設置し管理運営する地方公共団体であり、被告医師及び山田医師は、同病院に勤務する医師である。

2  出産に至るまでの経過

(一) 原告Bは、平成二年一一月五日、刈谷市内の鈴木産婦人科で診察を受けた際に妊娠していることが判明した(原告B)。

以後、原告Bは、定期的に、名古屋市緑区所在の阪井病院において、阪井邦枝医師(以下「阪井医師」という。)の診察を受けていたところ、その過程で双胎であると診断された上、平成三年五月二二日の定期診察において妊娠中毒症であると診断された。双胎かつ妊娠中毒症であることから、阪井医師は原告Bに対し、緑市民病院で診察及び治療を受けることを勧め、緑市民病院を紹介した。

(二) 原告Bは、同月二三日、緑市民病院産婦人科部長の山田医師の診察を受け、妊娠中毒症の治療のため入院するよう指示され、同日、緑市民病院に入院するとともに、原告Bの出産予定日が同年六月三〇日であることから、緑市民病院で分娩することとなり、もって、被告名古屋市と原告らとの間に、原告Bの妊娠中毒症の治療、双胎分娩及びこれらに付随する処置を目的とする診療契約が締結された。

(三) 原告Bは、同年五月三〇日の超音波検査により、第一子、第二子ともに胎位が頭位であることが確認され、同年六月三日の被告医師の外診によっても、第一子、第二子ともに胎位が頭位であると診断された(乙二、被告医師)。

(四) 同月八日、原告Bは午後六時ころ及び午後一一時ころに出血があり、その旨を看護婦に伝えたが、まだ出産の徴候がないとされた。

ところが、同月九日午前一時二〇分ころ、看護婦が内診した時には、既に子宮口が三、四センチメートル開大し、破水していたため、原告Bは陣痛室に移動した。

同日の当直医であった被告医師は、看護婦からこの旨を伝えられ、同日午前一時三五分ころ、原告Bを診察して破水を確認し、山田医師に指示を仰いだところ、山田医師は経膣分娩の予定であるから経過観察のままでよいとの指示を与えたため、以後、経過観察がされた。

(五) 原告Bは、同日午前七時四〇分ころ子宮口が開大したため、同八時一五分ころに分娩室へ搬送された。

原告Bの分娩は被告医師が担当し、原告Bは、同日午前一一時〇〇分ころ、第一子(男児、体重二八一〇グラム)を経膣分娩により娩出した。

(六) 同日は日曜日であり、同日の当直医でなかった山田医師は、当初は原告Bの分娩に立ち会っていたが、子宮口が全開し、第一子が鉗子定位置のところまで下降したことを確認した後、ポケットベルを持参し被告医師との連絡が取れる状態にした上で(オンコール方式)、帰宅した(証人山田)。

(七) その後の同日午前一一時五分ころ、被告医師が第二子について人工破膜したところ、臍帯が脱出し、第二子であるCの胎位は横位であった。被告医師は、内回転術を施行し、胎位の正常化を試みたが、これをすることができなかった。

そこで、帝王切開を行うため、被告医師と看護婦らは、山田医師らとの連絡を試みたが、山田医師は即時に緑市民病院に来ることが可能な場所にいなかったため、被告医師と応援の医師が執刀することとなり、同日午後〇時一八分ころにCが娩出された。

しかし、Cに臍帯脱出が生じたことにより、血流が著しく悪くなった結果、酸素供給が不十分となり、Cは重度の仮死・無酸素脳症の状態で出生した。

3  Cの死亡

Cは、出生した平成三年六月九日午後三時に緑市民病院から名古屋市千種区所在の名古屋市立東市民病院(以下「東市民病院」という。)に転送され、その後、自宅で療養していたところ、同年一一月二八日、誤嚥による呼吸不全により死亡した(甲四)。

二  原告らの主張

1  被告医師、山田医師及び被告名古屋市の過失(以下「被告らの過失」という。なお、以下の(二)ないし(五)の過失は、選択的に主張するものである。)

(一) 双胎分娩の危険性と医師のとるべき処置

(1)  双胎分娩は、単胎と比較して周産期死亡率が高いが、それは、分娩中の異常の発生率が高いことがその一因とされる。

また、双胎分娩につき経膣分娩を選択した場合、第一子と比較して第二子の周産期死亡率が高いが、その原因は、第二子が第一子よりも分娩のストレスを多く受け、胎児仮死を起こす確率が高いこと、第一子娩出後、常位胎盤早期剥離が起きやすいことに加え、第一子娩出後には、第一子と羊水の一部が娩出され、子宮腔内に物理的余裕が生じるため、何らの処置も講じないと、第二子が移動して胎位が横位や斜位になり、破膜により上肢や臍帯が頭よりも先に脱出してしまうことによる。

(2)  分娩方法の選択に当たっては、二児の胎位の確認及び立会医師の臨床経験が重要な判断要素となる。

二児の胎位の確認が重要であるのは、二児の胎位の組合せにより、分娩の危険性や難易度が異なるからであり、確実に胎位を確認するためには、超音波断層装置によるべきである。

両児とも頭位である場合は、最も安全性が高く、他に異常の認められない場合には、当初から経膣分娩が選択されることが一般的であり、第一子が頭位で、第二子が骨盤位の場合には、次に安全度が高いと考えられている。

しかしながら、第一子が頭位であっても、第二子が横位や斜位等胎位が不安定な場合には、第一子娩出後に第二子の臍帯・上肢が脱出する可能性が高いので、危険度も高い。

この場合、第二子に外回転術又は人工破膜の後に内回転術を施行し、頭位又は骨盤位に矯正して先進部を骨盤腔内に誘導し、臍帯・上肢脱出を防止し、経膣的に娩出させることも可能であるが、そのためには、十分な経験のある産科医の立会いが必要であるから、立会医師の臨床経験も重要な判断要素となる。

したがって、経験のある産科医の立会いがない場合には、後記(3) の直ちに帝王切開手術が施行できるような体制をとっておく必要があり、緊急帝王切開手術ができないのであれば、当初から帝王切開を選択すべきこととなる。

(3)  経膣分娩を選択した場合でも、双胎分娩では、第二子の常位胎盤早期剥離や臍帯脱出などが起こる可能性は常に存在するため、緊急時に備えて即時に帝王切開に移行できる人的及び物的措置を整えておく体制、いわゆる、ダブルセットアップ体制(以下「ダブルセットアップ体制」という。)を整えておく必要がある。

(4)  経膣分娩により第一子が娩出された場合、第二子の胎位変化が起きないようにしつつ速やかに第二子の娩出をはかる必要がある。

そこで、まず第一子娩出後に再度第二子の胎位を確認することが必要である。

第二子が横位や斜位であれば、第二子の先進部を外部から把持して骨盤腔内に誘導し、縦位にして先進部が骨盤腔内に進入・固定するような操作を行うことが必要となる。右の操作を行わず、横位や斜位のまま人工破膜を行うことは、急速遂娩の適応がない限り禁忌とされている。なぜなら、先進部が骨盤腔内に進入・固定しておらず、破膜後に羊水の流出とともに臍帯や上肢の脱出を起こす可能性が高いからである。しかし、このような操作は経験ある産科医でなければ成功しないため、経験ある産科医の立会いのない場合には、横位や斜位と確認した後、即座に帝王切開を選択すべきである。

第二子が縦位であることが確認された場合、あるいは、右操作により縦位とされた場合、骨盤腔内に固定・陥入する措置を行い、先進部が骨盤腔内に陥入した後は、子宮底を腹帯で軽く縛るか、看護婦、助産婦などに子宮底を軽く下方に押さえさせて、第二子が移動して先進部が骨盤腔内から挙上することを防がなければならない。

内診で胎位を確認の上、児頭が骨盤腔内に下降進入・固定する措置を行い、陥入したことを確かめ、胎児を子宮底の方から圧迫して、児頭を固定させた上で、人工破膜することが、人工破膜の際の基本的・初歩的手技である。

(二) 被告医師において、分娩開始時に第二子の胎位確認を怠り、経膣分娩を選択した過失

本件において、特に第二子の子宮内での動きが活発であり、平成三年五月三〇日以降、胎位の変化があることは医師として容易に予測することができたものであり、分娩開始時に再度胎位確認を行うことは極めて重要であった。

しかるに、被告医師は、分娩開始時に、内診により第一子が頭位であることは確認したものの、第二子の胎位確認を怠った。

本件において、分娩開始時に第二子の胎位確認がされていれば、第二子は横位あるいは斜位であった可能性が高く、被告医師は内回転術の経験のない医師だったことから、帝王切開を選択すべきであった。

更に、重度妊娠中毒症の場合は、帝王切開がより安全であると考えられるが、本件でも原告Bの妊娠中毒症は重度であったという事情があり、この点からも、当初から帝王切開を選択すべきであった。したがって、分娩開始時に第二子の胎位確認を行うことなく、漫然と経膣分娩を選択した点において、被告医師の過失は明白である。

(三) ダブルセットアップ体制をとらなかった過失

双胎の分娩では、経膣分娩の方針をとった場合にも、第一子の娩出後に第二子の常位胎盤早期剥離や臍帯脱出などが起こる可能性が存在するため、ダブルセットアップ体制を整えておく必要があるところ、被告名古屋市は、右体制をとることを可能とする人的及び物的措置をとることなく病院の管理運営に当たっていた。本件において、ダブルセットアップ体制をとっていれば本件結果を回避できた可能性が高かったのであり、ダブルセットアップ体制をとっていなかった被告名古屋市は責任を免れない。

仮に右主張が認められないとしても、本件において、被告医師は、ダブルセットアップ体制を整えていなかったため、第二子が臍帯脱出を起こしてから帝王切開を開始するまで約一時間あまりの長時間を要した。ダブルセットアップ体制をとっていれば、Cが重度仮死により出生するという結果を回避できた可能性が高かったのであり、ダブルセットアップ体制を整えていなかった点において、被告医師の過失は明らかである。

(四) 被告医師において、第二子の臍帯脱出を生じさせた過失

被告医師は、第一子娩出後、第二子の胎位を確認しないまま人工破膜を行い、このため臍帯脱出を生じさせたといえる。

仮に、被告医師が、内診により縦位であることを確認したとしても、先進部が固定・陥入するための措置が不十分であったか、又は、仮に、先進部が固定・陥入していることを確認していたとしても、人工破膜を行う際に、第二子の胎位変化を防ぐために子宮底を圧迫するという処置をとることを怠ったため、第二子が縦位から横位になり、臍帯脱出を生じさせたものであるから、いずれにせよ、被告医師の過失は明らかである。

(五) 山田医師の過失

山田医師は、双胎分娩の場合、第一子娩出後に第二子に常位胎盤早期剥離や臍帯脱出などの異常が発生し、胎児仮死となる可能性が高いという危険性を認識せず、本件分娩開始後、分娩に立ち会いながら、子宮口が全開し、第一子が鉗子定位置のところまで下降した段階で、第一子に引き続き、第二子も異常なく娩出に至ると安易に考え、被告医師にその後の処置を任せ、立ち去った。そして、立ち去った理由について、何らの説明もしていない。

しかしながら、被告医師は、山田医師に比してその経験が乏しく、内回転術の経験もないのであるから、山田医師としては、第二子の分娩が終了し、母体に弛緩出血などが起きないことを確かめるまで、分娩室で立ち会うべきであった。経験のある産科医であれば、第一子娩出後、第二子の先進部を外部から押さえて骨盤入口内に誘導して斜位や横位になることを防ぎ、先進部が骨盤腔内に陥入したら子宮底を軽く圧迫して、先進部の上昇を防ぎ、その上で人工破膜することを確実に行うことができたのであり、山田医師もこれができたと考えられる。仮に、第二子が横位のままで破水し、臍帯脱出が起きたとしても、山田医師であれば、内回転術に成功して経膣的に第二子を娩出させることもできた可能性があり、また、帝王切開術を選択した場合も、即座にこれを行うことができたのである。

しかるに、山田医師は、最も危険性が高くなることが予期される段階で立ち去ったもので、そのため本件のような結果が生じたのであり、山田医師に過失があることは明らかである。

2  因果関係

Cの直接の死因は誤嚥による呼吸不全であるが、右誤嚥はCが重度の仮死・無酸素脳症の状態で出生したため、自力でミルクを飲むことができなかったことが原因である。

Cが重度の仮死・無酸素脳症で出生したのは、臍帯脱出が生じて血流障害を起こし、帝王切開により娩出されるまで、一時間一三分もの間酸素不十分の状態におかれたためである。

よって、被告らの過失とCの死亡との間には因果関係がある。

3  損害

(一) 逸失利益

Cの稼働可能年数は一八歳から六七歳に達するまでの四九年間であり、毎年の収入額を金五〇六万八六〇〇円(賃金センサス平成二年第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計、男子全年齢平均賃金)とし、生活費として五割を減じ、中間利息をライプニッツ方式により控除して逸失利益の現価を算出すると、金一九一三万一四三〇円となる。原告両名は、Cの両親であるから、右損害賠償請求権の各二分の一である金九五六万五七一五円を相続した。

(二) 慰謝料

Cの死亡による原告らの精神的苦痛は計り知れないものがあり、その慰謝料は各自金九〇〇万円を下らない。

(三) 葬儀費用

Cの死亡により、原告らはCの葬儀を行ったが、本件不法行為あるいは債務不履行と相当因果関係のある葬儀費用は原告ら各金五〇万円をもって相当とする。

(四) 弁護士費用

被告らは、任意の賠償に応じないため、原告らは原告ら代理人に本訴提起及び訴訟追行を委任したが、本件不法行為あるいは債務不履行と相当因果関係のある弁護士費用は原告ら各金一〇〇万円をもって相当とする。

三  被告らの主張

1  被告らの過失について

(一) 被告医師において、分娩開始時に第二子の胎位確認を怠り、経膣分娩を選択した過失について

平成三年当時、臨床の現場において分娩直前に必ず超音波断層装置による胎位確認が義務づけられていたものではない。

双胎の分娩において、分娩方法の選択において重要なことは、第一子が頭位か骨盤位かであって、第一子が頭位であれば、第二子が横位や斜位であっても、経膣分娩の適応がある。本件において、平成三年五月三〇日の超音波検査以降も連日担当医師が原告Bを診察し、ドップラー検査を施行しているのであり、その際に外診により第一子、第二子ともに頭位であることの確認はできていたから、被告医師が経膣分娩を選択した点に過失はない。

被告医師は、卒後六年余産婦人科臨床医として経験を積み、昭和六二年一〇月から平成三年五月までの間、緑市民病院の分娩数一八五七例(双胎は一一例)のほとんどに携わってきたものであるから、経験十分な医師というべきであり、被告医師の経験が不十分であることを前提とした原告らの主張は失当である。

なお、原告Bは妊娠中毒症であったが、本件は、原告Bの妊娠中毒症と第二子の死亡との間に何ら因果関係のない事案であるから、当初から帝王切開しなかったことをもって、結果回避のための因果関係ある過失ということはできない。

(二) ダブルセットアップ体制をとらなかった過失について

緑市民病院は、名古屋市にある五つの市民病院の一つであるが、産婦人科常勤医師は三名であり、麻酔科は配置されていない中規模の病院である。産婦人科医は常勤三名しかいないため、日曜、祝日は医師一名が当直医となり、緊急の場合には帰宅している一名がポケットベルで対応するオンコール方式をとっていたのであり、現在でも中規模の病院において一般的に行われている方式である。そして、本件では、人工破膜後執刀開始までの所要時間は一時間八分であり、この間に超音波下での内回転術の施行、手術室への搬送、術前処置、看護婦の呼出しなど、緑市民病院として最大限の努力を尽くしていたのであり、オンコール方式をとっていた病院の対応として容認できる時間の範囲内にある。

本件において要求されるダブルセットアップ体制が、医師及び看護婦等の人的スタッフも含めて可及的に帝王切開手術できる体制ということになれば、産婦人科医二名と麻酔科医一名を待機させることになり、そのような体制を組みうるのは、平成三年当時においても、また現時点においても、地域の周産期センターを標榜する三次病院でないと不可能である。

したがって、右のようなダブルセットアップ体制をとっていないという管理運営上の点において、被告名古屋市に過失があるとはいえない。

次に、本件分娩は、第一子の娩出まで順調に経緯しており、少なくとも、平成三年六月九日午前一一時までは、ダブルセットアップ体制を必要とする程度の分娩経過ではなかったところ、被告医師は、同日午前一一時五分、横位及び臍帯脱出と判断された時点から、速やかに帝王切開の準備を指示したものであって、内回転術を試みた後に初めて帝王切開の準備を始めたものではない。

そして、執刀を開始した同日午前一二時一三分までの所要時間は約一時間八分であり、この間に、被告医師は、超音波下での内回転術の施行、手術室への搬送、術前処置及び看護婦の呼出しを行い、また、オンコール中の山田医師に連絡を取るなどの措置をとっており、帝王切開のための準備につき被告医師に非難されるべき点はない。

(三) 被告医師において、臍帯脱出を生じさせた過失について

被告医師は、第一子娩出後五分位経過した平成三年六月九日午前一一時五分に内診したところ、第二子を包んでいる卵膜が強く緊満した状態で、第二子がステーションプラスマイナスゼロ程度まで陥入したので、更に内診しながらコッヘルで破膜した。羊水が流出し、卵膜をもう一度内診するために押し上げたところ、先進部が肩であり、肩に臍帯が巻き付いた状態であることに気がついた。

被告医師は、直ちに、内回転術を開始するとともに、同日午前一一時一〇分には超音波エコー下で内回転術を行ったが、うまく第二子の足がつかめず、同日午前一一時一八分には上肢が子宮口から出る上肢下垂の状態となったため、内回転術を断念した。この間に児心音は徐々に除脈となったため、会陰部から手を入れて臍帯が胎児の重さで圧迫されないように、胎児を押し上げていた。

本件は、以上の経過のとおり、第二子娩出のための人工破膜まで、第一子及び第二子の胎児心音にも異常はなく、分娩経過も極めて順調に推移してきたもので、また、人工破膜前に内診を行って、先進部が頭であり、ステーションプラスマイナスゼロの状態まで陥入(固定されたという状況よりもなお下降した状況)していたのであるから、子宮底部から中等度の圧迫まで加える必要はなかったのであって、破膜後に第二子が動いたのは全く予想し難い事態といわざるを得ず、被告医師が、人工破膜後に第二子が横位になったり、臍帯脱出が発生することを具体的に予見することは不可能であったというべきである。

(四) 山田医師の過失について

当時の緑市民病院レベルの医療機関の医療水準として、ダブルセットアップ体制をとることまでは求められていないとするならば、何らかの特別の異常所見がない限り、当直でない山田医師はオンコールに応じられる状態にあれば責任を果たしたことになり、第一子娩出まで順調な経過にあった本件では、あえてそれ以後分娩室にとどまるべき合理的理由はない。

そして、本件では、オンコール方式による呼出しとしても容認できる時間内に外科医が到着し、執刀が開始されているのであるから、山田医師に責められるべき点は何もない。

なお、被告医師は産婦人科臨床医として経験十分な医師というべきであるから、被告医師の経験が不十分であることを前提とした原告らの主張は失当である。

よって、山田医師に過失はない。

2  因果関係について

原告らの主張は争う。

3  損害について

原告らの主張は争う。

四  争点

よって、本件の争点は、以下のとおりである。

1  以下のとおりの被告らの過失が認められるか否か。

(一) 被告医師につき、分娩開始時に第二子の胎位確認を怠り、経膣分娩を選択した過失が認められるか。

(二) 被告名古屋市につき、即時に帝王切開を行いうる体制(いわゆるダブルセットアップ体制)をとらなかった過失が認められるか。

仮にそうでないとしても、被告医師につき、第二子の分娩に際し、ダブルセットアップ体制をとらなかった過失が認められるか。

(三) 被告医師につき、第一子娩出後において第二子の胎位確認を怠り、又は、人工破膜を行うための処置を適切に行わず、第二子に臍帯脱出を生じさせた過失が認められるか。

(四) 山田医師につき、第二子の分娩が終了するまで立ち会わなかった過失が認められるか。

2  因果関係

3  損害

第三当裁判所の判断

一  争点1について

まず、被告医師につき、第一子娩出後において第二子の胎位確認を怠り、又は、人工破膜を行うための処置を適切に行わず、第二子に臍帯脱出を生じさせた過失が認められるか(争点1(三))について、検討する。

1  双胎における第二子の分娩及び人工破膜の際行うべき処置について

証拠(甲一四ないし一六、一九、鑑定結果、証人西島、同我妻)及び弁論の全趣旨によれば、双胎における第二子の分娩及び人工破膜の際行うべき処置についての医学的知見としては、次のとおりであることが認められる。

(一) 二児以上の複数の胎児を同時に胎内に有する状態を多胎妊娠といい、二児の場合を双胎という。多胎妊娠が単胎妊娠に比べ、周産期死亡率が高いことは広く知られており、多胎妊娠では分娩時の母体、胎児合併症が多いので、その分娩管理は慎重に計画されなければならない。

なお、胎位の種別は、大きく分別して縦位と横位があり、縦位とは、胎児長軸が母胎(子宮)長軸に一致する場合をいい、骨盤入口への胎児の下降部によって頭位と骨盤位に大別され、横位とは、胎児の長軸と母胎(子宮)の長軸とが交差し、その角度が直角に近い場合をいう。また、胎児長軸と母胎(子宮)長軸とが一致せず斜めになっている場合を、斜位という場合がある。

(二) 双胎における第二子の分娩に当たって、第二子の胎位は、第一子の娩出後に変わりうることに注意を要する。第一子娩出後、術者は直ちに内診し、児の先進部の確認とともに臍帯脱出の有無を確認する。あるいは、ベツドサイドに超音波装置を置き、直ちに第二子の胎位を確認する。超音波ガイド下に頭位あるいは骨盤位になるように外回転術を行う場合もある。

第二子の胎位が確認された場合、<1>第二子が頭位の場合には、児頭が骨盤内に進入・固定したところで人工破膜を行う、<2>第二子が骨盤位の場合には、牽出術かあるいは骨盤位の自然分娩を介助する、<3>第二子が横位の場合には、足位内回転術によって骨盤位に変え、次いで、骨盤位牽出術によって胎児を娩出させるが、右処置が困難で横位のままであったり、分娩が進行せず経膣分娩が不能な時には、第二子に対する緊急帝王切開を行った方がよい場合がある。

(三) 第二子の胎位確認の結果、横位や斜位であれば、その後臍帯脱出が生じるのを防ぐため、第二子の先進部を外部から把持して骨盤腔内に誘導し、縦位にして先進部が骨盤腔内に進入・固定するような操作を行うことが必要となる。先進部が骨盤腔内に進入・固定していない場合、破膜後に羊水の流出とともに臍帯や上肢の脱出を起こす可能性が高いため、右の操作を行わず、横位や斜位のまま人工破膜を行うことは、急速遂娩の適応がない限り禁忌とされている。

第二子の胎位確認の結果、縦位であることが確認され、右操作により先進部が骨盤腔内に陥入した後は、子宮底を腹帯で軽く縛るか看護婦、助産婦などに子宮底を軽く下方に押さえさせて第二子が移動して先進部が骨盤腔内から挙上することを防がなければならない。人工破膜の際には、内診で児頭が骨盤腔内に下降進入・固定したことを確かめ、胎児を子宮底の方から圧迫して、児頭を固定させた上で、人工破膜することが、人工破膜の際の基本的手技となる。

以上によれば、双胎における第二子の分娩において、胎児の先進部が骨盤腔に進入・固定していない状態での人工破膜は、臍帯脱出を起こす可能性が高く避けなければならず、したがって、第一子娩出後、第二子が横位である場合には、医師としては頭位又は骨盤位にするための処置をとる必要があり、場合によっては、帝王切開をする必要も出てくるのであるから、そのために、医師としては、第一子娩出後、第二子の胎位を確認する義務があるというべきである。

そして、第二子の胎位が縦位であると確認され、あるいは、横位又は斜位であったため、これを縦位にする操作が行われたとしても、人工破膜に当たっては、先進部が骨盤腔内に固定・陥入する操作を行った上で、先進部が骨盤腔から挙上することを防ぐ処置を十分に行う義務があるというべきである。

2  そこで、まず、被告医師が、第一子娩出後に第二子の胎位を確認すべき注意義務を尽くしたかについて検討するに、前記争いのない事実等に、証拠(乙一、二、証人山田、被告医師、原告A、同B)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 原告Bが破水した後の平成三年六月九日午前六時三〇分ころ、原告Bの子宮口が八センチメートル開大し、その際の第一子の胎位は頭位であり、児頭の高さ(下降度)は「十1」であった。

同日午前七時四〇分ころ、原告Bの子宮口は全開し、同日午前一一時ころ、第一子が娩出された。

(二) 第一子娩出後の同日午前一一時五分ころ、被告医師は、内診により、第二子の先進部(児頭)が下降してきていること及び卵膜の強い緊満を確認し、第二子の胎位を頭位と判断した後、人工破膜の処置を行った。人工破膜により羊水が流出し、卵膜を広げて、再び内診したところ、先進部が肩である上、肩に臍帯を巻き付けた状態であることに気がつき、横位かつ臍帯脱出と判断されたが、臍帯の拍動は良好であった。

そこで、被告医師は、直ちに看護婦に対し、外出中の山田医師にポケットベルで連絡を取るよう指示し、同医師に、「横位・臍帯脱出である」旨電話にて伝え、かつ、帝王切開の準備(手術助手の確保と手術室の看護婦の呼出し)を順次指示した。手術助手は、山田医師が一時間以内に戻れる場所にいないため、緑市民病院産婦人科の辻医師、中谷医師、近医の中根医院、坂井医院、緑市民病院外科医師の順で応援を依頼し、緑市民病院では、手術室の看護婦は帰宅していたので、緊急呼出しをかけた。

右と並行して、被告医師は、内回転術を施行したがうまくいかず、同日午前一一時一〇分ころに超音波検査を実施し、胎児の頭、足、心臓の正確な位置を確認の上、再度内回転術を施行したが、うまくいかなかった。

同日午前一一時二〇分ころ、外科病棟から、伊藤実外科部長に連絡が取れたとの電話があり、来院を頼み、手術助手の手配がついたので手術を決定した。この間、被告医師は、胎児を手で挙上し臍帯の圧迫を抑えながら、手術の準備が整うのを待ったが、胎児心音は時々徐脈(ベースライン毎分一二〇回のところ毎分八〇回程まで時々下降)となるなど、徐々に悪くなっていった。

(三) 同日午前一一時四五分ころ、手術の準備が整ったので、原告Bをストレッチャーにて手術室へ搬送し、分娩室の入口で、被告医師は、原告Aに手術の説明をした。原告Bは、同日午前一一時五〇分ころに手術室に入室し、同日午後〇時七分ころ、第二子の心拍数は毎分六〇回であった。このころに外科医師が手術室に到着し、同医師も着替えと手洗いをした。同日午後〇時一三分ころに執刀が開始され、同〇時一八分ころに第二子が娩出されたが、仮死状態のため小児科医師の治療を受けた。この時点での、アプガールスコアは〇点、五分後には二点、一〇分後には一四点であった。同〇時三七分ころに帝王切開手術を終了し、同〇時四五分ころに会陰部縫合を終了した。

以上の事実によれば、被告医師は、第一子娩出後に、内診によって第二子の胎位が頭位である旨を確認しており、第一子娩出後の第二子の胎位は、頭位であったというべきである。

この点、原告らは、被告医師は、第一子娩出後に第二子の胎位を確認しないまま人工破膜を行ったもので、第二子は横位であった可能性が高い旨主張する。そして、甲一六には、「分娩開始時までに第二子の子宮内での動きがかなり活発であったことが推測され、分娩開始時には第二子が頭位に近い斜位であった可能性もある、本件では、第二子の胎位が不安定であることが既に認識されていたはずであり、第一子娩出後に第二子の心拍数に異常がなく、時間的にも余裕があったから、超音波断層装置を利用すれば、第二子の胎位をより確実に診断しえた可能性が高い」旨の記載がある。

しかしながら、第一子娩出後人工破膜を行うまでの間に、被告医師が内診を行ったことは前記認定事実のとおりであり、被告医師は、内診により、第二子の先進部が頭であったことを確認した旨供述していること、証拠(甲一六、証人我妻、被告医師)によれば、内診を行わず人工破膜すること及び内診により確認した胎位の判断が間違っているということは、産科医学的におよそ考えられないと認められること、診療録及び入院日誌等(以下「カルテ等」という。)には、被告医師が第一子分娩後に第二子の胎位を確認した旨の明確な記載はないが、内診あるいは外診によって胎位の確認を頻繁に行うことは分娩時における常態であって(証人山田、被告医師)、これを逐一カルテ等に記載しないことも十分に考えられること等を考慮すると、第一子分娩後の第二子の胎位は頭位であったと認めるのが相当であって、カルテ等に明確な記載のないことや超音波断層装置を利用した胎位の確認がされていないことは右認定を左右するものとはいえず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、被告医師は、第一子娩出後の第二子の胎位につき、内診によって横位でないことを確認しているのであるから、この点について過失はない。

3  次に、被告医師が、人工破膜に当たり、先進部を進入・固定させた上で、先進部が骨盤腔内から挙上することを防ぐ処置を十分に行う注意義務を尽くしたかについて検討する。

前記2の事実経過によれば、第一子娩出後における第二子の胎位は頭位であり、その後、被告医師が人工破膜を行った際に第二子が横位となったことが認められるから、第二子の胎位変化は、被告医師による人工破膜の処置の際に生じたと推認することができる。

そして、人工破膜を行うための具体的処置についての医学的知見としては、第二子の胎位確認の結果、縦位であることが確認された場合、あるいは、横位や斜位であれば縦位にして、先進部を骨盤腔内に進入・固定する操作をし、この操作により、先進部が骨盤腔内に固定、更に陥入した後は、子宮底を腹帯で軽く縛るか看護婦、助産婦などに子宮底を軽く下方に押さえさせて第二子が移動して先進部が骨盤腔内から挙上することを防がなければならず、人工破膜の際には、内診で児頭が骨盤腔内に下降進入・固定したことを確かめ、胎児を子宮底の方から圧迫して、児頭を固定させた上で、人工破膜することが、人工破膜の際の基本的手技となるとされていることは前記1(三)のとおりであることからすると、本件において、被告医師は、人工破膜の際に、右のような基本的操作を確実に行わなかったため、児頭が浮上して羊水の流出とともに胎児が横位となったものと考えることが最も合理的である。

これに対し、被告らは、第一子娩出後、被告医師において、第二子の先進部が頭であり、ステーションプラスマイナスゼロの状態まで陥入していることを確認して、人工破膜をしたものであって、破膜後に胎位が変化することを予見することは不可能であったというべきであり、その処置につき不備はないと主張する。

しかしながら、分娩時における胎児の骨盤腔への下降の程度については、下降していく順に、「胎児が浮動する状態」、「固定された状態」、「陥入した状態」と表現されるが、ステーションという下降度を示す指標を用いることもあり、ステーションプラスマイナスゼロは「固定された状態」と一般にいわれる状態より更に下降した状態、すなわち「陥入した状態」を示すことが認められる(甲一六、証人西島、同我妻、鑑定結果)ところ、本件における人工破膜時の第二子の先進部の骨盤腔への下降度については、被告医師は、「第一子が娩出して五分くらいたった時点で、内診により、第二子を包んでいる卵膜が緊張した状態で、第二子がある程度固定された状態になっていたので、内診をしながら、コッヘルで破膜をした。」、「固定とは、卵膜が緊張して、赤ちゃんがまっすぐになった状態で、先進する部分が骨盤の中にはまり込んで移動しない状態をいう。」等と供述し、反対尋問で「ある程度固定された」というのは、かなり弱い程度で固定しているという趣旨でよいかとの質問に対しては、「いいと思います。」と供述したが、再主尋問で「弱い程度に固定している」という表現は適切であるかとの質問に対して、「固定というのは、ステーションプラスマイナスゼロのことをいい、本件では、そういった意味で、プラスマイナスゼロ程度だったと思う。これは浮動していない状態である。」旨を供述しているものであって、以上によれば、被告医師は、右供述に当たり、「陥入した状態」を含むものとして「固定」という用語を使用していることが窺われるものの、その点を考慮してもなお、本件の人工破膜時において、第二子の先進部は、ある程度固定された、あるいは弱い程度に固定している状態にあったにすぎず、完全に「固定された状態」にまで至っていたとはいい難く、まして「陥入した状態」にあったとは認められない(なお、本件ではステーションプラスマイナスゼロ程度であったとの被告医師の供述も、内診の際ステーションプラスマイナスゼロであると診断したという趣旨ではなく、固定していたと診断した記憶に基づき、これを説明するために言い換えたものにすぎないと解されるから、以上の認定を左右するに足りるものとはいえない。)。

そして、双胎分娩における第一子娩出後の骨盤腔内は、単胎分娩に比べかなり弛緩しており、第二子の先進部がステーションプラスマイナスゼロの状態まで骨盤腔へ陥入した後であっても、人工破膜の際に羊水の流出などにより、第二子の胎位が変化する可能性は否定できない(証人西島、同我妻、被告医師)のであるから、先進部がある程度固定した状態に止まる本件では、先進部が陥入した段階と比較して、胎位変化の可能性が高かったといわざるを得ない。

したがって、本件において、被告医師は、まず、第二子の先進部を確実に骨盤腔内に陥入させる操作をした上で、第二子が移動して先進部が骨盤腔内から挙上することを防ぐ措置を講じ、胎児を子宮底の方から圧迫して、児頭を固定させた上で、人工破膜するという基本的操作を行う必要があるというべきところ、被告医師の供述によっても、被告医師は第一子娩出後、しばらく小児科の先生と一緒に第一子を観察しており、娩出して五分位経った時点で、内診により第二子の胎位を確認した後、人工破膜をしたもので、この間に第二子の進入・固定に関する処置をした形跡はないし、人工破膜に際し第二子の挙上を防ぐ措置を講じたことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、いずれにせよ被告らの右主張は採用できない。

そして、他に、被告医師において、人工破膜を行う上での処置に不備があったとの右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  以上によれば、被告医師は、第二子の人工破膜を行う処置を適切に行ったとはいえず、過失があったものというべきであるから、不法行為に基づき損害賠償責任を負う。

また、被告医師は被告名古屋市の被用者であり、被告医師による本件分娩はその職務の執行についてなされた行為であるから、被告名古屋市は、使用者責任に基づき損害賠償責任を負う。

二  争点2について

1  被告医師の過失行為とCの死亡との因果関係を検討するに、前記争いのない事実等に、証拠(甲四、乙一、二、八、九、原告A、同B)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 平成三年六月九日、午後〇時一八分ころ、Cが帝王切開により娩出された。Cのアプガールスコアは〇点で、臍帯脱出による酸素供給不足による無酸素脳症及び重症仮死状態であり、同日午後三時に東市民病院に転送された。

東市民病院において、Cは、自分でミルクを飲むことができないため、ミルクを通すための管を鼻から胃まで通しており、また、自分で体温調節ができず、筋肉がすぐに硬直するため、これを防ぐための体操を行ったりしていたが、泣き声を出すことも呼びかけに反応するようなこともなく、症状の改善はみられなかった。

(二) Cは前記のような症状のまま、同年一一月一日、東市民病院を退院し、原告らの監視の下に自宅療養をしていたが、同月二八日、呼吸不全を引き起こし、死亡した。一度飲んだミルクが、むせて胃から出て肺に入った結果、窒息死したというものであった。

2  以上の事実経過に、Cが重症仮死状態で出生した原因は、前記一のとおり被告医師の人工破膜の処置の不備により臍帯脱出が生じたことにあることを併せ考慮すると、被告医師の右過失とCの死亡との間には相当因果関係があるというべきである。

三  争点3について

1  逸失利益

前記争いのない事実等によれば、原告らの子であるCは、平成三年一一月二八日、出生後約六か月で死亡したところ、就労可能年数を一八歳から六七歳までの四九年間とし、毎年の収入額を五〇六万八六〇〇円(平成二年の賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、男子全年齢平均賃金)とし、生活費の控除を五〇パーセントとして、ライプニッツ方式により中間利息を控除して逸失利益の総額を算出すると、次のとおり一九一三万一四三〇円となるから、Cの逸失利益は少なくとも一九一三万一四三〇円と認めるのが相当である。

五〇六万八六〇〇円×〇・五×七・五四九=一九一三万一四三〇円

よって、原告らはそれぞれ、一九一三万一四三〇円の二分の一である九五六万五七一五円の損害賠償請求権を相続したものと認められる。

2  慰謝料

Cの両親である原告らが、Cの死亡により受けた精神的苦痛に対する慰謝料の額は、本件記録に顕れた一切の諸事情を考慮すると、総額一五〇〇万円(各七五〇万円)とするのが相当である。

3  葬儀費用

原告らの行ったCの葬儀(弁論の全趣旨)について、本件不法行為と因果関係のある葬儀費用としては、一〇〇万円(各五〇万円)が相当と認められる。

4  弁護士費用

原告らが要した弁護士費用については、一四〇万円(各七〇万円)を相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。

5  損害額の合計

以上によれば、被告医師の不法行為と相当因果関係のある損害の合計額は三六五三万一四三〇円(各一八二六万五七一五円)となる。

四  結論

以上の次第で、原告らの各請求は、被告医師及び被告名古屋市に対し、各自一八二六万五七一五円及びこれに対する不法行為の日である平成三年六月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筏津順子 裁判官 黒岩巳敏 裁判官 松井洋)

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